余命10年

 藤井監督と洋次郎は、ドラマ「100万円の女たち」で出会った。連続ドラマ初演出の監督と、初主演の俳優として。

「余命10年」は、RADWIMPSが初めて手がけた実写映画のサウンドトラックとなった。過去の新海監督作品では、スタジオでビデオコンテと言われるまだ完成していないアニメーションを観ながら音楽を制作していた。

 今回は実写なので、既に映像が完成している。実際の俳優が動き涙を流す姿に、スタジオには何度も沈黙が訪れた。思わず見入ってしまい泣いてしまうのだ。何度も映像を観て、セリフも覚えてしまってもそれは続いた。次に来るシーンが分かっているのに、またそれを観て目を真っ赤にしていた。いつかは平気になるだろうと思っていたが、気がつくとまた映像に飲み込まれている。

 あまりにそれが続くので、不思議に思った。どんなものでも、何回も観たら慣れるはずなのに。

 あくまで僕個人の感想なのだが、全てが恐ろしいほど強く結びついて共振しているからじゃないかと思った。

 世の中にはありとあらゆる感情が、同時多発的に存在している。どの人がどんな感情を持っているかは本人にしか分からないが、映画では全部を感じることができる。

「余命10年」では、難病に襲われた茉莉とその同級生の和人、茉莉の家族や友人の感情が丹念に描かれていく。結末に向かって強く結びつき共振していく、たくさんの人々の全ての感情をまざまざと観せつけられるのだ。

 それは、新たな体験だった。小さな波のようなものが絶えず押し寄せてきて、その積み重なりがある時臨界点を超えて、とてつもなく大きい波となって飲み込まれてしまう。

 タイムリミットを予感しながら、ゆっくりと溢れていく感情。それが一年間に渡って撮影された美しい四季のうつろいとも強く結びつき、タペストリーのように丁寧に綿密に描かれていく。

 そしてRADWIMPSの作った映画音楽も、全てに強く結びついている。登場人物の感情だけではなく、観客の感情にも寄り添って作られている。映像やセリフでは表現しなかった微妙な感情を、そっと差し出して来るのが音楽だ。

 監督から洋次郎に映画音楽を依頼した時、「監督、何曲くらい?」「まだはっきりしませんが、17曲くらいでしょうか?」というようなやりとりがあったそうだ。

 最終的に、30曲が制作された。そのくらい多様な感情が、一つずつ丁寧に紡がれている。

 映画を観た後に、是非サウンドトラックを聴いて欲しい。聴くたびに印象的な映像が浮かび上がるはずだ。何によってそれが左右されているのか、その時の天気や体調、精神状態なのかは分からないが、いつも美しい映像が浮かんでくる。僕たちスタッフはみんな、そういう経験をしている。

 主題歌「うるうびと」は、脚本を読んだ洋次郎がサウンドトラックの一部とともに最初に作ったものだ。キャストとスタッフは、そのデモを聴いて同じイメージを共有して撮影に臨んでいった。準備段階の登場人物の衣装を決める時にも流されていたという。

 あまりに多くのパーツが結びついていく様は、小川が合流して海に向かっていくようだった。是非あなたも体感を。 

 僕も母を難病で亡くしてしまった。不治の病は、原因も分からず治療法もないと伝えられる。本人や家族は、それでも生きていこうと願う。

 難病も戦争も、あといくつ心臓があればなくなるのだろう。

 ワタナベ

 

 

 

 

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04:03

Comments(15)

コメント(15)

よー

映画すごく良かったです。 終始涙してました。。。 私にも心配性で優しい父と明るい母と何でもこなす姉がいて、家族構成が同じこともあって、内容は違っても、こんな感じで家族会議するなぁとか、姉妹のやりとりこんな感じだよなぁとか思い浮かべながら観てました。 涙の理由はきっとそういうことなんだと思いながら観てました。 家族の葛藤や友だち、恋人の優しさ、もどかしさ、そして本人の葛藤や戸惑い、決意等たくさんの感情がRADWIMPSの音楽と合わさって表現されていたように思います。 『重なる四季』は宣伝で聴いた時からずっと好きでした。映画を観ながらは、私の中でのいろんな感情を全部出してくれました。 やっぱり好きだなぁと観終わってから再確認しました♩ 心動かす作品をありがとうございました。 お疲れさまでした⭐︎

石川 あかね

はじめまして。 昨夜、余命10年、見てきました。 マスクをしながらの鑑賞、想像はしていましたが、ビショビショで帰りました。 洋次郎さんの声が、せつなすぎて、またあふれます。 この作品は、予告だけで泣けた、数ある作品の中で、ココロに残りつづけるひとつになりました。 洋次郎さん、制作に携わってくださった、全ての方々に、感謝します。 感動を、ありがとうございました。

カオリンラッドラブ

映画観てきました。 泣くと分かっていたけど、やっぱりたくさん泣きました。 RADWIMPSの音楽と映画の世界が合わさってものすごい感動が生まれていました。 しばらくは放心状態が続きそうです。 この状態でサントラを聴くと映画のシーンを思い出して涙が止まらなさそうです。 サントラを聴くのはもう少し後になりそうです。

みちゃこ

『うるうびと』をはじめ30曲すべてが映画やキャスト・スタッフの皆さんと綿密な時間を共有してきたのだと思うと、映画を見るのが本当に楽しみです。映画館で堪能したあと、ひとりでゆっくりとサントラに耳を傾けようと思います。

みこ

スタッフダイアリーで目が潤んでしまいました今の自分にどう響くのか、心のままに感じてみたいです。 サントラは観終わるまで大切にとっておこうと思います。

のんチャン

ナベさん! 今日映画観てきました! 泣いて頭がぼーっとしています 本当に美しい映画でした 流れる音楽が2人を、周りの人たちを温かく包んでくれていて、 あ、RADWIMPSらしい曲だな〜って思うところもあったけど、映像に引き込まれていたので、これからサウンドトラック聞こうと思います。 本当に本当に素敵な映画でした。これは本当に映画館観るべきなので、また観に行きたいと思います。 小川流加さんに届きますように

makoto

今日、映画を観てきました。 RADが大好きで出会えた 素晴らしい作品。 全ての人が、与えられた命を 大切に、抱きしめて生きられますように。 ナベさん 素敵な文章をありがとう。

makoto

ナベさん 今日、映画を観てきました。 RADが大好きで出会えた、素晴らしい作品。 全ての人が、与えられた命を 大切に、抱きしめて生きられるようにと 心から思います。 素敵な文章をありがとうございます。

Ierunawa

いつも美しい芸術作品(歌)... ありがとうございます。 🙏

DADAcco

私の娘も一昨年ある病を発症しました。薬を飲んでいますが、いつまたあの苦しみが襲ってくるか分からずに過ごしています。でも、娘は前向き!楽しい事を沢山やりたい!と。そうすれば病気もどこかに行ってしまうのではないかと信じています。そんな娘と明日この映画を観に行きます。映画とともにRADが作った音楽を大事に受け取ります。映画が終わったら私の中に何が残るのか…楽しみです。

マカロロン

ナベさんの、洋次郎の歌詞(言葉)を用いた、最後の引用がすごいと思いました。

ひとみ

映画見てきました。泣いた泣いた泣いた。 私も母を亡くしてるので共感するところがありすぎて思い出して涙が止まらなくなりました。 こんなに泣いたの久しぶりでした。 映像も綺麗で、音もきれいで ピアノの音が優しく寄り添ってくれたり、悲しみにリンクしたり… 音楽の力を、洋次郎の凄さを、RADWIMPSの素晴らしさを更に感じました。 最後のシーンは音の風が吹いてきました。 また新しい世界に連れてもらえた心地でした。 届けてくれてありがとうございます。 また観に。何回も体感に行きたいです😊 沢山の人に届きますように…

ぶり

すべての人が幸せになってほしいと、無理なことかもしれないけれど願わずにはいられない作品でした。 この作品に出会えてほんとうによかったです。 病気で苦しんでる人がいる中で、無意味な戦争がこの時代になってもなお繰り返されることにただただ悲しいです。 音楽で戦争がなくなる日がくることをいのっています。

雨さん

公開初日朝一番の上映を観てきました。 始まった瞬間の美しい桜と 1音目の音だけで涙がこぼれそうでした。 何度も泣いて中盤からは 涙が止まらなかったのですが 特に印象的だったのは 松重パパと華姉ちゃんの涙でした。 恋愛だけじゃなくて 友情や家族愛とか ほんとたくさんの愛の詰まった映画でした。 あと何回か観に行くつもりですが きっと何度観ても心揺さぶられて 泣いてしまうんだろうなと思います。 フィクションとノンフィクションの狭間で また心揺さぶられたいです。

杏珠

最後の一文に涙が溢れてとまりません。 いつもみなさんに救われています。

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