正解
NHKの「18祭」にRADWIMPSが出演したのは、2018年10月。
もう約5年前である。
全国の18歳世代が送ってくれたたくさんの動画には、その若さから来る勢いや力強さ、その青春の時にしかない、一瞬で燃え上がるような清新さが溢れていた。
その動画に感化して作られた「正解」は、この年の12月にリリースしたアルバム「ANTI ANTI GENERATION」に、「正解(18FES ver.)」として収録された。
1000人の合唱から得たインパクトは大きくて、その後のRADWIMPSの音楽には、合唱が重要なパーツとしてたびたび登場することになる。
翌年の2019年にリリースされたサウンドトラック「天気の子」の「グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子」にも、それは顕著にあらわれているのではないかと思う。
多くの人が、声をあわせてひとつの曲を唱う。
その熱くフィジカルで祈りにも似たパワーは、聴く人の心を揺さぶるけれど、同時に唱う人の心も大きく振動させる。
「18祭」に集まった1000人の中で、涙しながら「正解」を唄っていた人が、どれだけ多かったことか。(会場でそれを見ていた僕でさえ、涙をもらってしまった。もらい泣きというよりも、涙が飛んできたみたいな印象がある)
その後、卒業式で「正解」をみんなで歌いたい、という声が多くよせられた。
多くの友たちとの、旅立ちと別れ。
その神聖な磁場の中で「正解」は、歌う人と聴く人に奥深く響き渡るだろうと思えた。
それに応えて、オフィシャルサイトに楽譜をアップした。
唄ってくれる人たちは増えていったが、音源として出ている「正解(18FES ver.)」は、洋次郎がメインボーカルをとっているものだったので、それぞれ唱う人たちが合唱の形態によって、いくつかの修正や変更を加えていくこととなった。
その結果、いくつかのバージョン違いが生まれていった。
まさに楽曲が人々に愛され、RADWIMPSの手を離れてひとり歩きをしていったのである。
多くの愛に応えて、より唄いやすいようにしたい。
唱う形態によって修正を加えなくてもいいように、オフィシャル音源としてあらためて提示しよう。
そうして作られたのが、本日リリースされるCDである。
新たに録りなおした「正解」に加え、RADWIMPSのメンバーが全てを監修してレコーディングした混声三部と女性三部の合唱。練習しやすいようにと議論を重ね、インストゥルメンタルとピアノの伴奏も追加した。
それぞれの譜面に加えて、学生の皆さんには馴染の深い、赤い暗記シートまで入れてある。ジャケットに暗記シートを重ねたりして、自ら学んだ日々を貴重なものとして思い返して頂けたらと思う。
時折電車や駅で、赤いフィルムを重ねて勉強している学生たちを見ると、胸が詰まるような思いがする時がある。
どれだけの重荷を抱えて、日々生きているのだろうかと。
僕は中学生までは、何故か家で勉強したり塾にいかなくても、いい成績をおさめられていた。だが高校に入ったら一気に、音楽や本、映画など好きなことに夢中になってしまい、このままでは卒業は無理と言われるまでになってしまった。
授業を受けるのが嫌で、お昼を食べたら自転車に乗って学校を抜け出し、よく映画館に行っていた。
田舎だったから、たくさん映画館があるわけではなかった。東京でロードショー公開されたものが、しばらくしてからやってくる映画館しかなかった。あとは、ヤクザ映画とポルノをメインとする映画館がひとつずつあった。
地方都市では、全ての行動は誰かに見られている。ポルノ映画館にも高校生の僕は格別の興味を抱いていたが、そこに入るのは自殺行為である。それなので、ロードショーの映画館一択で通い詰めていた。映画は選べず、そこで上映しているものをいやおうなく観る状況だったけれど。
映画を観終わって、午後の授業が終わった頃にはまた学校に戻り、部活動をしているような高校生だった。親に心配をかけて、後悔している。ごめんなさい。皆さんも、後悔しないようにしてくださいね。
そんな生活だったから、赤い暗記シートを真剣な顔でおさえている人を見ると、自分が逃げてしまった世界に、この人は向き合っているのだなという眩しさがある。
RADWIMPSの「正解」を聴いて僕は、あの不思議だった高校生活を思い出した。
世間的には誉められない生活だっただろうけれど、きっと多感で毎日たくさんの情報を受け取りながら、ヒリヒリした思いで生きていたのではないかと思う。
どんな大人になるのか、大人になってどんな発言をしたり、どんな文章を書いたりするのか。
それは、多感な10代の頃にどう生きていたのかに、大きく左右されると思う。
どんな友がいてどんな人を好きになったのか、どんなことに感動して心を震わせたのか。
傷ついてどうしようもなくなった時に、どうしていたのか。
やるべきことから逃げずに、どう立ち向かっていたのか。
その全てが、「正解」の歌詞に込められている。
答えがある問いばかりを教わって来たけれど、自分だけの正解を探しにいこう。
これはずっと洋次郎が、問いかけ続けてきたテーマだ。
誰がなんといおうが、自分の正解は自分で決めていこう。
制限時間は、あなたのこれからの人生。
採点基準は、あなたのこれからの人生。
だからこそ、その潔い曇りのなさに、「正解」を唱う人も聴く人も、心が揺さぶられるのだろう。
答え合わせの時に、僕たちの誰もがいなくなっていたとしても、この曲が歌い継がれていてくれたらと思う。
もしあなたが歌ってくれたら、それは誰かに伝承していく。
あなたにそのバトンを託せるのであれば、このCDを世に送り出した意味があるというものである。
心を込めて、お届けします。
コメント(2)
まちゃきち